脳卒中センター
「超急性期医療から復職まで」
24時間365日、脳卒中の診療を行っています
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- 日本脳卒中学会認定一次脳卒中センター
- 日本脳卒中学会認定研修教育施設
- 日本脳神経血管内治療学会認定研修施設
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脳神経内科医師と脳神経外科医師が協働で診療
脳卒中救急医療をリードする日本医科大学脳神経内科・脳卒中集中治療科、脳血管外科手術・脳血管内手術において高度な技術を継承する昭和大学脳神経外科からスタッフが派遣されています。内科医と外科医が一緒に脳卒中救急の診療をするのが東京労災病院脳卒中センターの特徴です。
脳卒中とは
脳卒中はいつ誰に起きるか分からない病気です。「卒」は「突然」、「中」は「あたる」という意味です。英語では「Stroke」といいますが、ラケットやクラブでボールを打つ時や水泳で水をかく時の「振り回したものが強く当たる」の語源と同じです。突然、動けなくなる、喋れなくなる、頭が痛くなるなどの症状が出ます。その原因は脳の血管が詰まるか破れるために脳神経が機能しなくなるためです。
脳卒中は以下の3つの病態に分類されます。
脳梗塞:心臓から脳を循環する血管が閉塞し脳の血液が流れず脳神経が壊死します。
脳出血:脳内の血管が破れ脳実質内に出血します(以前は脳溢血と言われていました)。
くも膜下出血:脳血管にできた脳動脈瘤というコブが破れ脳全体に出血が広まります。
脳卒中の症状
脳の機能は部位により異なるため、損傷部位や大きさにより麻痺や言語障害、記憶障害など異なる症状がでます。脳は大脳(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉)、小脳、脳幹からなり、部位ごとの機能は以下のようになっています。
前頭葉:思考、感情、注意、判断、意欲などの人間的な複雑な機能があります。体を動かす運動領域、言葉を発する運動性言語領域もあります。脳は体の反対側を司るため、右側の脳が損傷されたら左半身に、左側の脳が損傷されたら右半身に症状が出ます。前頭葉が損傷されると、運動麻痺、運動性失語症(話すことができない)、思考や感情の障害、高次機能障害などが生じます。
頭頂葉:体の感覚や空間認識、立体認識に関わります。頭頂葉の障害により三次元の認識ができなくなり、反対側の空間も認識できなくなります。半側空間無視といい、見えているはずの世界の半分しか認識できず、自分の体も半分を認識できず使おうとしません。食事も認識してない半分を残してしまいます。
側頭葉:記憶や、音声認識、言語の理解などに関わります。側頭葉内側の海馬は記憶に関係します。海馬の隣にある偏桃体の障害では、経験や記憶から下される瞬時の判断や情動が妨げられます。
後頭葉:目で見たものは視神経を経由し後頭葉で認識されます。視覚情報を処理し頭頂葉と一緒に空間認識に関わります。後頭葉の損傷では視野の狭窄や見ているものの認識に障害が生じます。
小脳:大脳の下にある部位です。繰り返して慣れている運動や細かい動き、姿勢や平衡感覚、流暢な発語などに関係します。障害によりふらついて立てない、歩けない、めまい、嘔気、細かい運動の障害、距離感がつかめない、振るえ、発話困難などの症状が出ます。
脳幹:呼吸、循環、意識、嚥下などに関わる生命の中枢機能があります。損傷されると意識障害、麻痺、感覚障害、嚥下障害などが生じ、脳ヘルニアという強い圧迫や損傷では亡くなることがあります。
脳内には複雑なネットワークがあるため、損傷された脳の部位や範囲により高次機能障害などさまざまな症状が生じます。体の動きや日常の会話は問題なくても難しい判断や集中力の持続、社会性に問題が生じていることもあります。
飲み込みができなくなることを嚥下障害といいますが、両側の脳の損傷でも生じます。高齢になるとむせ込むことが増えますが、嚥下障害があると誤嚥性肺炎を起こすことが多くなります。また、飲水や食事ができないと、鼻から胃の中にチューブを入れ流動食を送る処置などが必要になります。
脳卒中発症時の脳の損傷が強い場合は、遷延性意識障害といい意識の回復しない状態が続きます。
脳卒中の治療
脳卒中は迅速な診断と急性期治療が重要です。
119番通報の時点で脳卒中が疑われる場合は、迅速な救急搬送体制で治療が始まります。また、救急隊による現場到着時の「脳卒中」判断は素早く正確であり、脳卒中対応として救急搬送されます。
脳梗塞の治療:脳梗塞発症4時間30分以内のときはアルテプラーゼ(t-PA)という血栓を溶かす薬を1時間かけて点滴します。血栓とは血管を閉塞させる血の塊のことです。アルテプラーゼで血栓が溶けない場合は脳血管の中にカテーテルを誘導しステントや吸引機器を使用し血栓を除去します。血栓回収療法や急性期再開通療法といいます。アルテプラーゼや血栓回収療法は、脳神経の壊死が広まる前の超急性期にしか行えません。その後も脳血流改善や脳を保護する薬剤の点滴、再発予防薬の内服、リハビリテーションを行います。
脳出血の治療:脳の中には血管が破れやすく出血をする部位があります。被殻、視床、小脳、脳幹などです。出血が多い場合は緊急に血腫を取り除く手術を行います。
くも膜下出血の治療:くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂が原因です。再破裂すると症状の悪化や死亡する危険があるため緊急に再破裂を防ぐ手術が必要です。開頭して脳動脈瘤の根元を金属のクリップで閉塞する「脳動脈瘤クリッピング術」と、カテーテルを介し脳動脈瘤内に金属でできたコイルを入れていき動脈瘤を塞ぐ「脳動脈瘤コイル塞栓術」があります。
脳動脈瘤クリッピングは、一部頭蓋骨を外し脳の隙間(前頭葉と側頭葉の間や脳と頭蓋骨底の間)から脳動脈瘤にアプローチします。細かい手術操作となるため顕微鏡下の手術となります。出血が多く脳の圧が高い場合は、頭蓋骨を外したままで皮膚を閉鎖し、後日脳圧が下がってから頭蓋骨を戻す手術をします。脳や脊髄を循環する髄液が溜まってくる「水頭症」になっている場合は、髄液を流出させる「脳室ドレナージ」も追加します。
脳動脈瘤コイル塞栓術では、カテーテルという細いチューブを足の付け根の大腿動脈から脳内の血管まで誘導します。太いガイディングカテーテル内に細いマイクロカテーテルを進めることで、脳内の細い血管内にもアプローチができます。コイルは動脈瘤の大きさや形により種類を選択し、動脈瘤内に数本から10本程度留置します。
くも膜下出血は発症4-14日目頃に脳血管攣縮という脳の血管が細くなる反応が生じ、脳に血液が届かず脳梗塞を起こすことがあります。再出血予防の手術後は、脳血管攣縮予防の脳血流を改善させる治療に切り替わります。カテーテル治療で脳血管を広げることもあります。
また、脳脊髄液の循環障害が続いている「水頭症」では余分な髄液を脳や脊髄から腹腔内に流す手術を行います。脳内の脳室、または腰椎から髄液を腹腔内に流す細いチューブを留置します。「脳室腹腔シャント」、「腰椎腹腔シャント」といいます。
生活復帰・社会復帰
脳卒中を発症し脳神経が障害されると意識障害、運動麻痺、感覚障害、言語障害、失認、高次機能障害などが残ります。後遺症を軽くし、より以前の生活に近い形に戻れるよう、また、制限がある中でも生活していけるようにリハビリテーションを行います。以前は脳卒中発症後には安静がいいとされていましたが、現在は発症急性期からリハビリテーションを開始します。当院のような急性期病院では入院期間が短く決められているため、急性期治療後はリハビリテーションを専門にできる病院へ転院することになります。転院準備に関してはメディカルソーシャルワーカーが手伝ってくれますので心配いりません。スムースにリハビリテーション専門病院へ転院し回復期リハビリテーションに移行できるよう、近隣の病院とも連携しています。
当院のある東京都区南部医療圏(品川区・大田区)や隣の川崎市への転院が多いのですが、本人、ご家族が希望する地域への転院も可能です。当院は羽田空港が近いため、全国、また海外の患者さんも多く救急搬送され入院しています。全国の労災病院はじめ各地の病院への転院調整や移動時の安全も考慮しています。
また、病気になったときに利用できる社会資源はさまざまなものがあります。高額療養費制度、限度額適用認定証、傷病手当金、障害年金、介護保険、身体障害者手帳、自立支援医療制度、生活福祉資金貸付制度などです。急に働けなくなり、本人・ご家族とも経済的な不安が生じ、制度的なこともわかりにくいかと思います。メディカルソーシャルワーカーが経済的な支援や制度についても説明、対応いたします。
「治療と仕事の両立支援」
脳卒中の治療は年々進歩し、救急医療体制やリハビリテーションも整備されてきました。 しかし後遺症の重い方では介護が必要になることも多く、脳卒中は要介護となる原因として認知症に次ぎ2番目に多くなっています。
また、日常生活はできるようになっても仕事復帰は難しいという方も多くいます。仕事をしたくてもできない要因はさまざまです。発症前のパフォーマンスが維持できない、高次機能障害で注意力が低下している、運転できない、職場に受け入れる環境が整っていないなどです。現在、労働者健康安全機構の全国にある労災病院、産業保健センターでは病気の治療と仕事の両立ができるよう社会への働きかけを行っています。脳卒中医療では急性期治療が重要で力を入れていますが、それは本人、ご家族にとっても治療の始まりにすぎません。脳卒中治療のゴールは社会復帰になります。しかし脳卒中後の就労能力が低下した状態では様々な問題があります。当院では「治療と仕事の両立支援」に力を入れており、脳卒中分野で厚生労働省の「循環器病の患者に対する治療と仕事の両立支援モデル事業」施設となっています。復職に関しては、専門の「両立支援コーディネーター」が介入し、当院から回復期リハビリテーション病院への転院後も連携を維持し、職場とも情報共有し調整をしています。「両立支援コーディネーター」は労働者健康安全機構が養成研修を行っており、2021年3月時点では全国で7500名以上の方が研修を終了されています。
脳卒中の再発予防
脳梗塞は高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などで血管が脆くなる動脈硬化や不整脈が原因で起きます。脳梗塞は発症して10年間に半数の方が再発します。血圧、血糖、コレステロールを正常化し動脈硬化の進行を抑え、心房細動などの不整脈がある場合には不整脈の治療が必要です。血液を固まりにくくする抗血栓薬の内服も重要です。
脳出血の場合は抗血栓薬の内服はしませんが、血圧管理などが重要となります。
くも膜下出血の場合は脳動脈瘤の治療後であればあまり心配ありませんが、まれにコイル塞栓後の動脈瘤内に血流が再開することもあるため、定期的な検査を行います。禁煙は必須です。また、ご家族に脳動脈瘤やくも膜下出血を起こした方がいる場合は、頭部MRIで脳動脈瘤がないか検査することをお勧めします。