傷のケアセンター
「傷のケアセンター」の開設とその概要
かつては治らない傷、治りづらい傷といえば「褥瘡(床ずれ)」が代表的なものでした。しかし近年では高齢化や糖尿病の増加により、「下肢・足部潰瘍、足壊疽」が治らない傷の筆頭に挙げられるようになりました。現在、糖尿病患者の20%が足部潰瘍を経験しており、適切な治療がなければさらにその20%が下肢の切断に至るとされています。そして今日、本邦で行われている大腿部や膝下部での下肢大切断の原因の多くは、足壊疽の悪化によるものとなっています。
こうした肢切断を回避するために、東京労災病院では以前より適切なフットケア、創傷ケアを提供出来ますよう努力して参りましたが、平成26年7月から、院内のチームアプローチをより強化した「傷のケアセンター(難治性創傷治療センター)」を開設致しました。これまで当院では、下肢・足部潰足壊疽を有する患者さんは、個々の診療科で診察させて頂いておりましたが、特定の診療科のご指定がない場合は「傷のケアセンター」で拝見する事になりました。
「傷のケアセンター」では、外来初診を皮膚科、形成外科、整形外科、循環器内科からなる合同診療チームが担当し、各科の違いを超えて統一した診察プロトコールによって「治らない傷、治りづらい傷」を診断・評価致します。次いで創状態と全身状態に応じ、糖尿病・内分泌内科、腎臓代謝内科、外科、リハビリテーション科、フットケアクリニックのご協力の下、院内のチームアプローチによる集学的な治療を行います。
対象疾患および治療について
「傷のケアセンター」で扱う疾患は、糖尿病、重症虚血・知覚神経症・膠原病等を背景とした下肢・足部難治性潰瘍および壊疽、褥瘡、ガス壊疽・壊疽性筋膜炎、間歇性跛行、足の痛み・しびれ、静脈瘤等です。また外科手術や外傷後の「治らない傷」も治療しております。治療については、適切な全身管理、血行再建(血管カテーテル治療、血管バイパス手術)、陰圧閉鎖療法、湿潤療法、増殖因子治療、皮弁術・植皮術など多岐に渡ります。以下に私どもの治療の実際を記します。
- 虚血による足壊疽
下肢足部潰瘍・足壊疽の原因には虚血性障害、知覚神経障害、それらが混合した障害があります。その中で虚血性障害は下肢の閉塞性動脈硬化症によるものが大多数を占めます。高齢化や糖尿病・透析患者の増加により閉塞性動脈硬化症の患者数は増加傾向にありますが、その初期症状は不明瞭で、冷感やしびれ程度の自覚しかない患者さんが多く見られます。しかし重症化すると下肢壊疽に陥り、治療に難渋し切断率も高くなりますので、臨床上大きな問題となっております。
閉塞性動脈硬化症が進行し足部の潰瘍・壊疽に陥った状態は重症下肢虚血と呼ばれ、その治癒のためには患部下肢の血行再建が必要となります。血行再建の方法としては血管バイパス手術と血管内治療(カテーテル治療)があります。バイパス手術はスタンダードな手法ではありますが、重症下肢虚血の患者さんには糖尿病や冠動脈疾患を合併し全身状態が不良なハイリスク患者が多く含まれます。血管内治療は手術より低侵襲ですので、こうした症例には血行再建の最初の手法として選択されることが増えて参りました。またその成功率は向上しており、成功した場合は切断回避率や生存率においてバイパス手術に比べ遜色がないとする報告も多くなされています。重症下肢虚血の治療には血行再建と創傷治療のコンビネーションが必要となります。低侵襲に血行再建を行う手法の一つとして血管内治療は極めて有用です。 - 知覚神経症による足壊疽
足部の知覚神経障害すなわち足部の知覚が鈍麻する状態は、先天性の神経・脊髄疾患や、外傷(脊髄損傷)、ハンセン病などでも見られますが、今日では糖尿病による末梢神経障害によるものが大多数を占めます。創治療の主体は創部の免荷と感染対策であり、それらによって肢切断を回避するよう努めます。 - 虚血・知覚神経症の混合型障害による足壊疽
この病型は、重症下肢虚血と知覚神経障害が併発している病態で、最も治療に難渋する事が多いものです。治療には血行再建が重要であり、同時に厳重な免荷、感染治療が必要となります。 - 外科手術・重傷外傷後の難治性創傷
近年救急医療や全身管理の進歩によって、ハイリスク症例の手術が増え、また重傷外傷の多くが救命されるようになりました。こうした症例が増える中、手術後や救命治療後に残存する「治らない傷」も「傷のケアセンター」の重要な治療対象となっております。
お問い合わせ先
【初診診察日】 月曜日:午後、火~金曜日:午前
【連 絡 先】 地域医療連携室 ※平日8:15~17:00
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